発信元が存在しない
いずれの着信にも、発信番号、交換記録、通信事業者側の接続ログが残っていない。 ベル音だけが物理的に記録されている。
発信元不明。
交換記録なし。
時刻だけが残っていた。
電話は、
どこからも
かかっていなかった。
黒電話に関する最初の矛盾は、音声ではなく記録に現れた。 電話は鳴った。複数の証言者が聞いた。録音装置にもベル音が残った。 しかし通信会社の交換記録には、該当する着信が存在しなかった。
通常、電話が鳴るには発信元がある。発信者、交換経路、着信先、時刻、回線。 どこかに何かが残る。だが、黒電話の場合、残っていたのは音だけだった。
貸家には固定電話契約がない。壁の端子もない。電話線もない。 それでも居間の畳の上で黒電話は鳴り、玲奈は受話器を取った。
警察が押収した後も、同じ問題は続いた。証拠保管室に置かれた黒電話は、 配線を切断され、受話器を封印され、金属棚の奥に収められていた。 それでも、午前三時十七分、録音装置には着信音が残った。
このページは、物語内に残された着信記録、証言、録音時刻を整理したものである。 ただし、記録はすべて一つの結論へ向かっている。
事件ファイル上で確認された主要な着信記録。時刻はいずれも午前三時十七分を中心に集中している。
| 記録番号 | 場所 | 内容 | 時刻 |
|---|---|---|---|
| 317-C-01 | 山の貸家・居間 | 電話線なし。黒電話が畳の上で鳴る。玲奈が受話器を取る。 | 3:17 a.m. |
| 317-C-02 | 山の貸家・台所 | 居間の黒電話が消え、台所の段ボール上で再出現。ベル音継続。 | 3:17 a.m. |
| 317-C-03 | 玲奈のスマートフォン | 発信元不明の留守番電話。録音時間十二秒。発信履歴なし。 | 3:17 a.m. |
| 317-C-04 | 警察・証拠保管室 | 封印された証拠品317からベル音。保管室録音装置に記録。 | 3:17 a.m. |
| 317-C-05 | 病院・無人病室 | 患者不在、電話機不在。ベル音と悲鳴を録音。 | 3:17 a.m. |
| 317-C-06 | 国道沿いのモーテル | 空室からフロントへ内線。部屋に黒電話が出現。 | 3:17 a.m. |
| 317-C-07 | 山の貸家・玄関外 | 人影が受話器を持つ。黒電話本体は確認不能。 | 3:17 a.m. |
| 317-C-08 | 祖母の家・記憶内 | 回想内で黒電話が鳴る。物理記録なし。玲奈の証言のみ。 | 不明 / 3:17相当 |
| 317-C-09 | 駅ホーム・非常電話 | 玲奈のみ古いベル音を認識。周囲の証言なし。 | 朝 / 時刻不一致 |
着信記録には、通常の通信記録として成立しない矛盾が複数残されている。
いずれの着信にも、発信番号、交換記録、通信事業者側の接続ログが残っていない。 ベル音だけが物理的に記録されている。
貸家には固定回線がない。病院の無人病室には電話機がない。 証拠保管室の黒電話は配線を切断されていた。
同じ午前三時十七分の中で、複数の出来事が発生している。 玲奈の体感時間と時計の進み方が一致しない。
証言では数分間続いたように感じられる通話でも、録音上は十二秒、十八秒、 あるいは記録不能として処理されている。
ベル音は電話本体から聞こえるだけではない。 壁、床、鏡、スマートフォン、非常電話など、媒体を変えて現れる。
二度目以降、黒電話は受話器が置かれた状態でも向こう側とつながっている。 通話の開始条件が通常の電話と一致しない。
玲奈の証言をもとにした最初の着信の再構成。録音は残っていないが、 後の録音記録と一致する構造を持つ。
最終行の時刻は矛盾している。証言者は最初の通話後に台所のベルを聞いたと述べているが、 時計表示は再び午前三時十七分を示していた。
着信は、場所によって少しずつ姿を変える。しかし核となる流れは同じである。
最初の着信
玲奈が直接受話器を取る。悲鳴と「出ないで」を初めて聞く。
証拠保管室
封印された証拠品が鳴る。人が出ていないにもかかわらず録音あり。
無人病室
電話機のない病室で着信音。録音上、呼吸音が複数重なる。
空室
内線として記録されるが、交換台には履歴なし。受話器が濡れていた。
着信記録だけでは、電話の正体は分からない。 警察報告書、録音書き起こし、証拠品317と照合する必要がある。