一、電話は物理的に存在する
黒電話は目撃され、押収され、証拠品として登録されている。 夢や幻覚だけでは片づけられない。
これは怪談ではない。
まだ閉じられていない、
事件ファイルである。
黒電話の事件には、四つの主要資料が残されている。 着信記録、警察報告書、録音書き起こし、そして証拠品317。 それぞれは不完全だが、並べると一つの異常な輪郭が浮かび上がる。
最初の通報は、山の上の貸家からだった。 通報者の水原玲奈は、電話線のない家で黒電話が鳴ったと証言した。 さらに、受話器の向こうで聞こえた悲鳴は、自分自身の声だったと述べている。
当初、この事案は深夜の混乱、不審物、または悪質ないたずらとして処理される可能性があった。 しかし黒電話を押収した後、警察署の証拠保管室でも同じベル音が記録された。
通信記録はない。発信元もない。配線もない。 それでも音は残った。声は残った。午前三時十七分という時刻だけが、複数の資料にまたがって一致していた。
物語を事件として読むなら、ここから始めるのが最も強い。 記録の硬さが、怪異をかえって現実に近づける。
各資料は、別々の角度から同じ黒電話を示している。 記録の種類が違うほど、矛盾も増える。
この事件の証拠は、答えを出すためではなく、答えを不可能にするために存在している。
黒電話は目撃され、押収され、証拠品として登録されている。 夢や幻覚だけでは片づけられない。
電話は鳴るが、発信元がない。着信先の回線もない。 通信ではなく、音だけが現れている。
録音された悲鳴は、聞いた者によって違う声として認識される。 その中心には、受話者本人の声がある。
玲奈は電話を壊したと証言する。 しかし現物は破損していない。破片だけが別に残る。
時計は進まない。記録は戻る。 午前三時十七分は、時刻ではなく入口として機能している。
電話は恐怖だけでなく、罪悪感と優しさを使う。 「助けなければ」と思わせることで、人に受話器を取らせる。
まずは着信記録で異常の形を見る。 次に警察報告書で物品としての黒電話を確認し、録音書き起こしで声の異常へ進む。 最後に証拠品317を見ると、電話が単なる道具ではないことが分かる。
証拠ページは、物語の外側にあるもう一つの入口。 怪談を記録として読むための道です。