一、ベル音
金属ベルの古い音。音量は大きくないが、録音機との距離に関係なく同じ大きさで残る。 音源位置の特定はできない。
十八秒の無音。
その後、呼吸音。
そして、悲鳴。
録音には、
声が残っていた。
でも、誰の声かは残らなかった。
黒電話に関する録音は、完全な形では残されていない。 どの記録にも欠落、ノイズ、音量の急変、時刻のずれがある。 しかし複数の録音には、同じ構造が確認されている。
最初はベル音。次に、受話器を取るような摩擦音。 その後、長い無音が続く。平均して十八秒前後。 この無音の間、録音装置には環境音がほとんど入っていない。
無音の後、呼吸音が現れる。 一人の呼吸のように聞こえるが、波形を重ねると複数の息が混じっている。 そのうち一つは、受話者本人の呼吸と似ている。
次に悲鳴。女性の声と記録されているが、聞いた人間によって証言が異なる。 ある者は子どもの声だと言い、ある者は老人の声だと言い、 ある者は「自分の声だった」と言う。
そして、多くの録音の最後に、短い言葉が残る。
以下は、病院記録、警察保管室記録、玲奈のスマートフォンに残された断片を照合し、 物語内資料として再構成した音声ログである。
複数の記録を比較すると、黒電話の音声には一定の流れがある。 それは通話というより、儀式に近い。
金属ベルの古い音。音量は大きくないが、録音機との距離に関係なく同じ大きさで残る。 音源位置の特定はできない。
受話器を持ち上げるような音が記録される。 ただし、証拠保管室の録音では、受話器は封印されたままだった。
平均十八秒前後の無音。環境音が消え、録音レベルだけがわずかに上がる。 この部分を聞いた者は耳の奥に圧迫感を訴える。
一人の呼吸に聞こえるが、分析上は複数の呼吸が重なっている。 受話者本人の呼吸に近い成分が含まれる場合がある。
最も大きな音声成分。聞き手によって声の年齢や性別が変わって聞こえる。 一部記録では、受話者本人の声紋と近似する。
悲鳴の後に残る一言。「出ないで」が最も多い。 ただし、「まだ」「かわって」「帰りなさい」と聞こえる断片もある。
記録ごとに、聞こえる言葉が少しずつ違う。 ここに、黒電話が「相手に合わせて声を変えている」可能性が現れる。
録音は残っていない。だが後の音声記録と構造が一致している。
公式記録では「音源不明の環境音」。担当刑事のメモには赤線が残る。
電話機のない病室で録音された。看護師は病室内に誰もいなかったと証言。
発信元不明。通信会社側の履歴なし。画面には午前三時十七分と表示。
音声記録は、黒電話の事件の中心にある。着信記録、警察報告書、悲鳴の解説と合わせて読むと、構造が見えてくる。