一、鳴る
黒画面にベル音。 まだ電話を見せない。 観客の記憶の中にある電話の音を先に呼び起こす。
午前三時十七分。
電話線のない家で、
黒電話が鳴った。
鳴り続けた。
出た瞬間、
私は叫んだ。
静かに始まり、音だけで怖がらせる。 叫びよりも、叫ぶ前の沈黙を長く使う予告にする。
予告では、すべてを説明しない。 観客が「なぜ鳴るのか」を知る前に、「出たらどうなるのか」を感じさせる。
黒画面にベル音。 まだ電話を見せない。 観客の記憶の中にある電話の音を先に呼び起こす。
受話器に触れた瞬間、ベル音が止まる。 音が止まることで、観客は次に来る声を待ってしまう。
最初は無音。呼吸。落下音。 悲鳴は短く使う。長く聞かせず、残響だけを残す。
鏡、窓、スマートフォン、証拠写真。 電話は本体だけでなく、反射と記録の中にも現れる。
事件ファイル、警察報告書、録音波形。 怪談を証拠の形にすることで、怖さが現実に寄ってくる。
最後の字幕は「出ないで」。 しかし観客は、もし鳴ったら自分が出るかもしれないと感じてしまう。
この順番で見せると、静かな怪談から事件記録、最後の電話へ流れが作れる。
低く、静かに。説明しすぎず、言葉の間にベル音を入れる。
この家に、電話線はない。
それなのに、午前三時十七分、黒電話が鳴った。
最初は、誰かが助けを求めているのだと思った。
受話器を取ると、音は消えた。
無音。
呼吸。
そして、悲鳴。
その声は、誰かのものではなかった。
私の声だった。