静かすぎる
車の音も、人の声も、隣家の生活音も届かない。 だから小さなベル音が、家全体を支配する。
誰もいないはずの廊下。
そこから、音がした。
家は、
何も言わなかった。
ただ、電話を置いた。
『電話』の物語は、一軒の古い貸家から始まる。 そこは事故現場でも、廃墟でも、特別な曰く付きの家でもない。 ただ静かすぎる家だった。だから、電話の音だけが異様に大きく聞こえた。
この家に電話線はない。固定電話の契約もない。 それなのに、午前三時十七分、居間の畳の上で黒電話が鳴り始める。
家そのものが怪物なのではない。 しかし、この家は電話が現れるための条件をすべて持っていた。 一人になれること。外の音が届かないこと。夜の沈黙が濃いこと。 そして、過去の記憶が入り込む余白があること。
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恐怖は、家が古いから生まれるのではない。 説明できそうな音が、少しずつ説明できなくなるから生まれる。
車の音も、人の声も、隣家の生活音も届かない。 だから小さなベル音が、家全体を支配する。
電気をつけても、廊下の奥、階段の下、襖の隙間に暗さが残る。 光が届かない場所が、電話の通り道になる。
最初は居間。次は台所。次は玄関。 電話そのものより先に、音が家の中を移動していく。